ずっと好きだった

 愛してほしいと口にしたら何かが変わっていたのかと、思うときがある。一度でも名前を呼んでほしいと言えば、呼んでもらえていたのかと考えることがある。
 結局そのどれもを試したところで報われないのだと気が付いていたからこそ、口にすることはなかったのだけれど。
 だからこそ自分なりの方法で、自分と同じ思いをしないようにと、弟に愛を与えた。彼をいい子だと思っているのは本当だ。彼に生まれてきてくれてありがとうと思っていることも本当だ。彼がいなければ生きたいと思えずにいただろうし、何かを頑張ろうとも思えずにいただろうから。
 丹楓にとって丹恒は生きる目的であり、守るべき対象だった。それが兄としての務めだと信じて疑わなかった。――――そうすることで、自分の寂しさを誤魔化し続けて、心を押し殺すのを見て見ぬフリをしていた。

 ――――本当は抱き締めてほしかった。自分を見て認めてもらいたかった。よく頑張ったと言って、褒めてもらいたかった。生まれてきてくれてありがとう、と言ってほしかった。

 本当はもうずっと前から限界だった。涙が止められなくなるのも、体ではなく気持ちの問題だと思っていた。体ばかりが成長した子供だという言葉も、あながち間違いではなかったのだろう。

 ――――小さな自分が頻りに泣きじゃくる夢を見た。薄暗く、独房のように狭い部屋の中で、たった一人で涙を流し続ける夢だった。以前足下に散らばっていた写真や、ぬいぐるみは彼の近くにはなく、何もない部屋の中で独りで泣いていた。

 それを見かねて、ああ、と人知れず言葉を洩らす。

 全てを失ってしまったのだと、今になって漸く底知れない寂しさを実感してとき、頬に涙が伝った。