ずっと目障りだった

 ――――カシャン、と落としてしまったのは、他でもない自分自身のスマートフォンだった。手から滑り落ち、床に叩きつけられたそれは、奇跡的に画面が割れる衝撃は味わっていないであろう小さな音だけを立てていた。丹楓はそれを拾う――――に至らず、ぽかんと目を丸くしたまま、眼前にいるそれを見つめる。

 丹楓の腕を掴んでいる手には、鮮血と見紛うほどに赤いネイルが施されていて、長い爪がギリリと食い込む。痛みという痛みは感じられないが、その手が微かに震えていることだけはよく分かった。甘栗色の長くウェーブがかった髪が、重力に従って床に向かって垂れている。おおよそ血縁者とは考えにくい黒にほど近い濃紺の瞳が、僅かに潤みながら丹楓を見上げ始める。