告白に戸惑い

 その日の話は無事に終わり、彼は「とっとと寝ろよ」と一言だけ言われて一人取り残されてしまった。蛍灯が仄かに飛び交う中で彼は額に手を添えて、うぅん、と唸る。何か良くないものに火を点けてしまったような気がしたが――、彼は考えることをやめて部屋に戻ったのだった。
 ――そうして数日後、ワタリから直接何があったのかを聞いてしまうことになる。

『無理に好きになってとは言わないからさ。できれば、その……意識をしてくれるだけでいいから……見てあげてほしいんだ』

 訓練量が倍になるのは嫌だよ。――そう眉尻を下げて涙ながらにワタリに告げたあの顔を、ワタリは数日は忘れることはないだろう。
 空の末裔との話を終えて、一人酒場のカウンター席に座ること一時間。ぼんやりとグラスを眺めていると、辺りから光霊達の声が聞こえてくるようになった。七時を過ぎる頃には沢山の光霊達が目を覚まし、各々が好きな場所で仕事をこなして、日常を送る。今日はどこに行きたい、あそこに用事がある――なんて会話を耳にするのも、もう聞き飽きた頃だ。

「意識、か……」

 何の気なしにグラスの中身を混ぜるために使っていたガラス製のマドラーを手放し、ワタリは額に手を当てて大きな溜め息を吐いた。
 これから一体どんな手を使ってくるのか、考えれば考えるほど頭が痛むような気がしてならない。本当に普段通りの日常が存在しているのか――不安で仕方がなかった。
 グラスの中身は空だ。それでも混ぜる仕草を取っていたのは、自分の気持ちを落ち着けるためだろう。

 遠くから聞こえてくる空の末裔であるナビゲーターの声。不安でしかない非日常がやって来る合図がした。