日常

 深い眠りに就く度に遠くから聞こえてくる声がある。それは静かで淡々としていて、抑揚がない。謂わば機械のように感情のこもらない声であり、波風立たないような泉の水、のような印象を与えてくる。一見冷たいと思いがちのそれは、よくよく聞けばとても優しい声音だと分かるのだ。

 ――そう思うのは、その声に深い情を感じるからだった。

 その声は言う。まるでこちらに言い聞かせるように、静かに。

「何も思い出さなくていい」
「何も知らなくていい」
「全て――が背負おう」