――思えば全て仕組まれていたことだったのだろう。人通りの多い街中に対して、喫茶店の中はおかしなほどに人が少なかった。何十件も存在する口コミがあるにも拘わらず、人が全くいないなど、初めから疑うしかなかった。穏やかに流れていたクラシック音楽は店内の雰囲気を損なうこともなく、漂う香りは普段と変わりのないものなのだろう。頭がまともに働いていない応星には、その異質さが見分けられず、そういうものなのだと認識していたのだ。
それに気が付いてしまうと、いっそう己の滑稽さに笑いさえも込み上げてくる。刃が告げた解決策とは、彼との邂逅。どこで気が付いたのかも分からないが、刃は応星が前世のことを夢に見ているということを知っていたのだろう。それが上手く今世の応星に馴染むことがなく、体力を奪われ続けていることが厄介だと思っていたに違いない。
流石は弟――否、自分自身と言うべきだろう。記憶の濁流に呑み込まれ、ひとつずつ記憶が体に馴染む今、刃が何であり、自分にとってどのような存在だったのか、手に取るように分かってしまう。
忌み嫌われた魔陰に堕ち、短命種の肩書きを投げ捨てられた不死の体。――何故刃が幼い頃から生に対する執着が薄かったのか、漸く理解した。彼は初めから前世の記憶を生まれ持っていたのだと。前世の――「刃」に至る前の記憶すらも持ち合わせていて、兄として生きている応星に対して、多少なりとも鬱陶しさを覚えていたのだろう。まさか自分自身を分けられるとは、夢にも思わなかったに違いない。生きていたいと思う気持ちが、薄かったに違いない。
――なんて、滑稽なことだろうか。愛したはずの彼を突き放し、憎み、罪を押しつけたことを忘れているなど。
ゆっくり。応星は閉じていた目を開いた。恐ろしいほどに広がる一面真っ白な世界。足元に広がる鮮血色の、鮮やかな彼岸花。その中央に応星は正座をして、膝の上に拳を作り、瞑想をするように瞼を下ろしていた。どこからか吹く風に白髪がなびき、流れに身を任せるように彼は顔を上げる。地平線のどこまでもを続く赤い花に目が眩みながら、折っていた足を伸ばし、静かに立ち上がった。
所狭しと立ち並ぶ彼岸の花を踏み締めてしまい、くしゃりと音が真下から鳴る。それを、横目で一瞥してから、応星は真っ直ぐに足を踏み出した。花を意図的に踏んでいるわけではないが、どこまでも広がる花を避けて進めと言われる方が無理難題である。いくらか犠牲にしてしまうことに多少の罪悪感を胸に抱えるものの、その感情は足元にあるそれに向けるためのものではないと、応星は手を握り締めた。
見覚えのある過客の服。右腕にある腕甲が、対を求めるように仄かに熱を帯びる。前に歩けば歩くほど、じわりじわりと温まってきて、――その姿が認識できるようになると、熱のことなど頭からすっかり失われた。
ざくざくと惜しみなく花を踏み締め、彼の眼前へと躍り出る。黒く艶やかだった髪は乱れ、その輝きを失い、端まで小綺麗だった彼の服はぼろく、今にも崩れてしまいそうだ。龍尊としてのツノを失い、尾もなくして、最早飲月君としての佇まいは見る影もない。
――しかし。それでも凜とした彼の背筋は、龍尊そのものだ。
「……丹楓」
ぽつりと呟くように紡いだ応星は、その姿を見て酷く心が痛む。あれだけ綺麗だと褒めていた見た目が一変して尚、彼は――丹楓は毅然としているように見えるが、黒髪から覗く彼の顔は、仄かに暗い。漸く紡げた名前すら丹楓の耳に届いているのかも分からないが、応星はもう一度「丹楓」と彼を呼んだ。
龍尊だの、飲月君だのと呼ばれる割には酷く愛らしい名前の響きだと、思ったことがある。柔らかく、丸みを帯びた感覚が、唇から通り抜ける度にくすぐったさを覚えさせる。仲間が周りにいる間は応星も彼を飲月と呼んでいたが、悪友として接する場合にのみ、彼の名前を口にしていた。
彼の腰に存在する赤い色の楓。それは、彼が「飲月君」である前に、「丹楓」として存在することを主張しているかのように小さく揺れる。どこから吹く風はほんのり生温かく、応星と丹風の頬を撫で、足元の花をくすぐった。
「丹楓」
漸く口にできる喜びを噛み締めるように、静寂が広がるこの場所で、応星は彼の名前を呼び続ける。この場所が天国か地獄か、そんなことは小さな問題でしかない。今はただ、彼の名称を呼び、彼が応えてくれるまで、同じことを繰り返すのが応星にとっては重要なのだ。
「丹楓」
――そうして名前を呼ぶこと四回。微動だにしなかった丹楓の唇が微かに開き、言葉を紡ぐ。
「――愚か者め」
そう非難する言葉こそ冷たいものがあったが、応星は彼の顔を見て、眉を僅かに八の字にした。
彼の声は普段と――龍尊の頃と何も変わらず、抑揚もなければ必要以上の感情を込めないように抑制されたもの。聞く者が聞けば背筋を凍らせ、思わず身を縮こめてしまうであろう言葉に、応星は悲しそうに微笑むだけだった。
何せ、愚か者と呟いたはずの丹楓の表情は、無表情とはかけ離れていて。今にも泣き出しそうなほど、歪められているのだ。眉尻は下がり、気丈な目付きは睨むように凄まれているものの、微かに潤んでいるのが分かる。今にも溢れ落ちそうな涙が溜まっているのを見かねて、それを掬い取ってやろうと止まっていた足を踏む出すと――彼の肩を、背後から棘のような針が貫いた。
「――――」
言葉を失い、応星は思わず足を止めてしまう。
だが、丹楓はそれに怯むことはなく、その針をあろうことか素手で握りながら口を開く。
「其方、全て貴様の所為だと、余に宣っただろう……何故、忘れることをしなかった」
其方の言葉の通りに、全てを背負うと決めたのに。
――そう言って悔しそうに顔を歪める彼を見かねて、応星は漸くその針の正体を知った。
夢の中で彼は何度もその針に刺され続けた。時には正面から。時には背後から。その基準を応星は知ることもなく、ただ刺される様子だけを見守っていたが――その原因のひとつが自分にあることを彼は知る。
正確には、丹楓にぶつけてしまった己の言葉だ。
言葉とは時にどんな凶器よりも鋭い刃となって、他人を傷付けてしまうもの。そこに悪意があろうがなかろうが、言葉を投げられた相手が傷付きさえすれば、何よりも鋭利なものに変わってしまうのだ。
夢の中で彼は応星の顔を見たあと、酷く悲しげな色を浮かべていた。無表情でそれを押し殺していたが、瞳の奥だけは隠しきれていなかった。目は口ほどにものを言うとはまさにこのことで、彼がその表情を浮かべるときには必ずと言ってもいいほど、背後から針が丹楓の体を射貫いていた。
その正体は――他でもない応星が、彼に送った言葉だ。自他共に認めるほど仲が良く、悪友とまで呼ばれていた彼を裏切り、勢いのままに投げてしまった凶器だ。「全て貴様の所為だ」と叫んだあとに見た丹楓の表情は、今思い出せば酷く悲しげに見えていたように思う。気付かれない程度に小さく俯いたと思えば、「そうだな」とだけ呟いて、諦めたように全てを享受しているように見えていた。
思えばそのときに、彼は大きな傷を負ったのだろう。その傷を、彼は何度も何度も負わされ、その度に応星に「忘れろ」と告げていた。全ては自分の所為なのだから、自分一人で全てを背負うと、応星に告げていたのだ。
あまりにも滑稽で、そして愚かだったと、応星は思う。丹楓はその傷を未だに忘れることができないと言うのに、負わせた自分はのうのうと職人としての道を選び、生きていたのだ。これまでにないほど馬鹿馬鹿しいと、過去にも、[[rb:現在>いま]]にも酷い苛立ちを募らせる。忘れられないほどの痛みを背負わせて、罪を押しつけて、どうしてのうのうと生きていられようか。
「どうして忘れなかったなんて、決まってるだろ、丹楓。後悔しているからだ」
丹楓一人に全てを押しつけてしまったこと。取り返しのつかない禁忌を犯したこと。燻り続けていた想いを告げることもなく、最悪の別れを遂げてしまったこと。――そのどれもを綺麗さっぱり忘れてしまっていたこと。
その全てを心の奥底で後悔し、隠し持っていたからこそ、彼は忘れることができずにいた。自分よりも小さな背丈。長い時を生きていたと言っても、物事を背負いすぎた体。弱音こそ吐くことがなかったからこそ、応星は彼が酷く儚く見えて仕方がなかった。いつの日か崩れ落ちてしまうのではないかと、何度も懸念した。献上した撃雲が、応星の代わりに丹楓を守ってくれと何度祈りを捧げたことか。
――結局、彼は折れることも、崩れ落ちることもなく。ただ「龍尊」としてその生を終えたのだ。応星はその様子を目にした記憶も、覚えもないが、不思議とその事実は頭の中に流れ、記憶として享受されている。ただの丹楓ではなく、飲月君として処刑され、丹楓としての命は誰にも知られることもなく、花が枯れるように散ったのだ。
「許してくれだなんて烏滸がましいことは言わないさ」
応星は止まっていた足を動かし、酷く憔悴しきった彼の元へ歩み寄る。その道中に何度も花を踏み殺し、歩んだ軌跡を残す。両手を伸ばせば抱き締められるほどの距離にまで近付いたとき、彼の肩を貫く針がフッとその姿を失った。やはり、消えるときも普段と変わりなく、音もないまま存在だけが掻き消される。そうして残されるのは、彼を貫いたという傷跡だけだった。
――丹楓の背後を刺すのはいつだって不意を突くものだった。その理由は当然、彼の視界に入らないものだからだろう。時折正面からやってくるその針に対して、丹楓は大した反応も示さないような無表情のまま、それを受け入れていた。まるで、そうされることが当然であるような態度に、いつだって理解はしきれなかった。
それももう、記憶を掻き集め、全てを受け入れた応星にとって何であるかなど、明白だ。
「――だからだ、丹楓」
両手を伸ばし、応星は自分よりも小さな体を抱き寄せる。すると、丹楓は驚いたように体を震わせてから、焦ったように「応星……っ」と声を上げた。
「お前の罪を、俺にも背負わせてくれないか」
――その直後、応星の体を丹楓諸共鋭い針が貫く。ほんの一瞬、応星の体は反射的に弾むように震え、丹楓を抱き締める腕に僅かな力が込められる。堪えたはずだが、ぐ、と小さな呻き声を上げてしまって。両腕に閉じ込めた彼が、「どうして」と呟いた。
「応星、これは、余に与えられた、極刑の一部だ……其方が、受ける必要は、どこにも」
震える声に、漸く丹楓としての感情が乗る。行き場のない丹楓の手が、抱き締めてくる応星の腕に添えられて、安否を確かめるように小さく撫でた。
背後から襲うのは、応星が丹楓に与えた凶器。そして、正面から来るのは、丹楓が受けた刑の一部。だからこそ彼は、正面からのそれを酷く落ち着いた様子で受け入れ続けていた。予見こそできていたのか、そうでないかは分からないが、恐らくそれが来るタイミングくらいは薄々気付いていたのだろう。故に彼は、応星が抱き締めてきたタイミングで驚き、彼の名前を呼んだに違いない。
応星は自分の胸元を貫くそれを、丹楓越しに見かねて、「しっかり、痛いな」と苦笑を洩らす。丹楓は静かに受け入れていたものだから、もしかしたら痛みはないのかと思っていたが、やはりそうではないらしい。応星と丹楓を射貫いたそれの先端は、二人の鮮血で濡れていて、足元に滴り落ちているのが見えた。赤い花に降りかかるそれに、薄く睨みを利かせて、応星はゆっくりと息を吸う。
ズキリと痛む胸元。頭痛など非にならないほどの痛みに、思わず意識を手放したくなるが、彼は唇を噛み締めてそれを堪える。応星の腕の中に収まる丹楓は小さく震えていて、龍尊の尊厳など見る影もない。「おうせい、」と呟かれた言葉はあまりにも弱々しく、今にも泣きそうな声色だった。
治療はできない。丹楓は龍尊としての威厳も、尊厳も、力も何もかもを剥奪されてしまった。目の前でいくら親しい間柄の人間が傷を負おうとも、彼には最早どうすることもできやしない。命の灯火が少しずつ消え失せていくのを、ただ見守ることしかできないのだ。
「丹ふ、う……俺にも、罰を受ける、必要くらい……あるさ……あれは、俺たち二人で、企てたろ……? だから……俺にも、受ける必要は、ある」
ひゅうひゅうと風を切るような音が、自分の口許から鳴っている。応星が貫かれたのは肺か、胃か。唇を開き、言葉を紡ぐ度に口の中に血の味が広がって、酷い吐き気がした。
――しかし、彼を応星が汚すわけにはいかない。競り上がってくるそれを懸命に飲み下し、痛みに呻きかける声を、言葉に代える。両腕を離して、そのまま彼の頬へと滑らせて顔を見やれば――動揺の隠せない丹楓の目から、涙が溢れた。
俺はこんなにも想われているのか――そう、痛みよりも愛しさが込み上げ、応星はそっと彼の目元に唇を寄せる。生温かく塩味を帯びた液体が舌の上を転がって、血生臭さに溢れる応星の口内を洗う。今までに応星が一度も行動に起こさなかった反動か、丹楓の涙は溢れるのをやめる代わりに、驚きのあまりに瞳が揺れた。
「なあ……共に、背負わせてくれ……俺たちの罪を、お前だけの罪に、しないでくれ……」
驚愕に濡れる彼の代わりに、応星は小さな微笑みを浮かべる。胸を貫かれ、声を張り上げたいほどの痛みに苛まれているが、丹楓が味わい続けてきた痛みに比べれば耐えられないほどではない。震えながらも添えられている丹楓の手を取り、応星は「どうだ」と言う。
「百冶の、肩書きを持つ、この応星……共に、罪を背負うのに、相応しいと思わないか?」
一呼吸置き、深く息を吸ってから応星は彼に告げた。息を吸うごとに激痛が身体中を走り、思わず息を止めかける。眉間にシワを寄せてしまったことに気付かれたのか、丹楓は一度だけ応星の手をほどこうとしたが、応星はその手に指を絡め、彼の腰に空いている手を回す。
唯一体付きが分かる腰回りは、やはり細い。強く抱き締めてしまえば折れてしまうのではないかと不安になるほど。丹楓はそうされることを予想していなかったのか、驚くように瞬きを数回繰り返していた。
言葉はない。喋れないわけでもない。ただ、彼は彼でどうするべきか、分からないのだ。
「――悪かった……あんなことを、言うべきではなかった……」
「もう、もういい、応星……余は初めから、其方に対して、怒りなど覚えていない」
だから離せ、と呟く彼をよりいっそう強く抱き寄せ、応星は額を押しつける。こつん、と固い感触。彼のツノがないからこそ、易々と行える行動。眼前に広がる応星の顔に不意を突かれたのか、丹楓は言葉を切ってそうっと視線を逸らした。決して逃げられないと知りながら、交わらない視線に、応星は軽く笑って「丹楓」と呼びかける。
風が応星の背中を押すように小さく吹いた。もうすぐこの夢は終わるのだと、直感が告げる。針は形を崩すようにぼろぼろと溢れ、終いには跡形もなく消え去ってしまった。それでも夢が終わりを告げないのは、彼が忘れることを勧めてこないからだろうか。
痛みと、「刺された」という事実だけが残された体は、少しずつ力を失っていくように重くなっていった。少しでも他所へと意識を向けてしまえば、足元から崩れ落ちてしまうのでは、と思うほど。――それでも応星は絡めた指をほどくことはなく、それどころかいっそう強く握って、再び「丹楓」と言った。
力強く握られた手に、丹楓の瞳が瞬く。小さく揺れたと思えば、一度目を閉じて――開いてから応星の顔を見上げた。瞳の向こうが透き通っているように見えるほど、美しい瞳だ。どんな宝石よりも輝き、どんな空よりも澄んでいる。じっと見つめていれば海に溺れて、呼吸を忘れる錯覚さえも覚えてしまった。
応星は彼の瞳が好きだ。誰よりも気高く、何よりも気丈に振る舞い、静かに見つめてくる彼の天色の瞳が好きだ。顔に出さない分、瞳に込められた感情を見極めて、彼の感情を広い集めて掬う瞬間に、丹楓という存在を理解してやれる気持ちになれる。他の誰でもない、応星が彼を分かってやれるのだと思うと、優越感にも似た感情が、応星の胸を満たした。
――その丹楓が、応星を見つめ返した後、小さく、小さく笑みを浮かべる。
「――大馬鹿者……其方は、本当に、愚かだ……応星」
そうして手を握る応星の手を、丹楓も小さく握り返す。全てを忘れていれば、思い悩むこともなかったのに、と言葉を続けた彼に、応星は笑って「無茶を言うな」と言った。他でもない愛したひとを、どうして孤独にしていられるだろうか。身勝手に押しつけた責任を、彼一人に背負わせ続けていられるだろうか。
そう、思い続ける応星の視界の端で、赤い彼岸が少しずつ綻び始める。風に揺れる花が、よりいっそう騒ぎ立てるように動いて、夢の終わりを告げ始める。目を覚ませば自分がどうなっているのか、考える気もないように、応星はただ目の前にいる丹楓だけを見つめた。
目を覚まして万が一彼がいなくとも、脳裏にその姿を焼き付けるように。丹楓という面影を決して失わないように。
――そうしていると、丹楓の片手が徐に応星の肩の近くに添えられる。その腕は、肩を貫かれた方とは逆の腕ではあるが、控えめに彼を享受しようとする様子は、何よりも「丹楓」らしく思えた。
あまりにも愛しい。ふつふつと湧き続ける彼への感情を、「愛」以外の言葉で表すことなど、応星にはできなかった。甘く、とろけるような夢見心地に身を任せるよう、応星はそうっと顔を寄せる。――すると、丹楓は意を決したように静かに目を閉じて、唇を開いた。
「――共に、地獄へ堕ちよう」
それは、どちらが口にした言葉なのか、応星にも分からなかった。応星が理解できたのは、その言葉を喉の奥に押し込み、己の身勝手で長年募らせた愛情を丹楓に押しつけるよう、唇を寄せたことだけ。柔らかく、拒むこともなく、「応星」という人間を真正面から受け入れ、享受する彼からは蓮の花の香りがした。
許してほしいわけではない。ただ、彼と共に、業を背負いたかった。
彼の隣を歩んでいたかった。
――もう二度と、丹楓を失いたくはなかった。
――夢が覚める。白と赤の二色で彩られた世界が綻ぶ。足元から崩れ落ちるような感覚が、応星の意識を揺さぶり続ける。彼岸が花を散らし、風は吹き荒れる。応星は丹楓の手を強く、強く握り締めた。
応星は決して、この夢を忘れることはないだろう――。