一時間毎に街の時計塔が鳴り響く仕組みのあるルフランでは、祭り事になれば鐘の音と同時に噴水が大きく立ち上るのが特徴的だ。花祭りであれば、花弁に見立てた紙吹雪が水と共に舞い、やけに綺麗な光景を生み出してくれる。心地好く晴れた今日という日も、それはそれは美しかっただろう。
わあ、と大きな歓声が沸き上がる最中、終焉は「どうぞ」と手渡されたそれを確かに受け取る。一本の棒切れに丁寧に、且つ細部まで繊細に作られた見事な水飴は、太陽に晒されるとまるで黄金のように煌めいた。
花祭りにちなんでか、花の形を模したそれを、二本受け取った終焉は無表情ながらも満足げに胸を張る。徐に顔を近付けてすん、と香りを嗅ぐと、食欲をそそるような甘い匂いがした。
随分と手の込んだ細工だな、と終焉は片方を空に掲げてみせる。何度見ても飽きることのなさそうな眩しい煌めきに、思わず感嘆の息を洩らした。私でも作れるものだろうか、と何気なく口を溢す。衝動的に二本買ってしまったそれを一口――舌を伝う甘味にほう、と満足げに息を吐きながら、「ノーチェは受け取ってくれるだろうか」と残した水飴を見つめる。
「クレープでさえ進んで食べているようではなかったからな……」
悩むように独り言を溢しながら終焉は石畳を歩き、噴水の向こうへと向かおうとした。道中子供達が勢いよく噴水へと駆け出す列へ鉢合わせ、「よくはしゃげるな」とそれを見ながら走り去っていくのを見守る。
甘い香りが誘うこの街に身を投じたのはいつの話だったか。思い返すのが難しいなと言うほど、終焉は何かを隠しているようだった。それも甘い香りに乗せて口の中へ運び、終焉は形のいい水飴を堪能する。
男は今、目先のことで手一杯なのだ。古い記憶に縋るほど落ちぶれてはいないつもりだった。
「……ん」
――甘味に気を取られ、異変に気が付いたのは噴水の向こうへと回ったときだった。ベンチに座っている筈のノーチェがどこを見渡しても見当たらなかった。いやに大人しい彼のことだから、用を足しにでも行ったのかも知れない――なんて、終焉は思う筈もなく、軽く目を細めながら水飴を食む。
ふと足元を見れば、彼のものであろう食べかけの桜色のクレープが、見るも無惨な形で石畳の上に落ちていた。――それは、ベンチよりも一、二歩離れた箇所にあって、終焉は冷めた瞳でそれを見ていた。
そして、水飴を咥えていた口に無意識で力を込める――。
「…………身の程知らずが……」
ぱきん、と割れるような小さな音と共に、水飴の欠片がパラパラと落ちていった。