襲撃と怒り

「……ここが……」

 ざ、と複数の音を鳴らしながら正面を見上げる男達。白いローブに金の装飾が施された〝教会〟の服は、太陽に照らされて煌々と輝くように光を反射する。僅かに寒さをもたらす木枯らしに対してその服は暖かかった。
 詰めた襟元にそっと口許を隠し、ほう、と息を吐く。

 噂によると、街外れの屋敷には〝終焉の者〟が身を寄せている。奴は大事な商品である奴隷を強奪した酷い生き物だ。素性が知れないからね。是が非でもそちらへ向かい、奴隷を奪還してきてほしい。無論、奴の生死は問わないよ。

 ――そう〝教会〟内告げられたのだ。人差し指を立てられ、自分だけにこっそりと打ち明けたような様子に、彼は興奮を隠せずに二つ返事で了承する。モーゼが頼っているのはヴェルダリアなんて存在ではなく、あくまで自分なのだと、優越感が体を突き動かした。
 複数の仲間は皆同じようにヴェルダリアを許さない正義に溢れた人材だ。誰よりもモーゼに忠誠を誓い、モーゼよりも偉そうにふんぞり返るヴェルダリアを嫌っている。〝教会〟内では基本暴力行為が認められないことから、彼らが衝突し合うのは口先だけだが――、本当ならば追い出したいほど嫌なのだ。
 そんな男よりも自分達が頼られた、という事実は彼らに希望を抱かせる。自分達が思う「正義」は何よりも正しく、モーゼに寄り添えるものであると再認識できた。

 〝終焉の者〟の生死は問わない――ヴェルダリアが殺せているかも分からない存在を、自分達が殺せたらどれほど称賛されるだろうか。もしかすると、本当にヴェルダリアを追い出せるかも知れない。

 ――そんな感情が、彼らの足を突き動かしていた。