雪を彷彿とさせてくるような白いクリーム。赤く熟れた甘酸っぱいイチゴに、ふんわりと柔らかなスポンジ生地。チョコレートで覆われた甘いケーキと共に現れたそれに、彼は「今日は腕を揮ったなあ」なんて考える。二種類のケーキをどちらも食べろと言わんばかりの登場に、ノーチェは首を傾げた。
どちらを食べよう。――そう思うと共に、周りの家庭と何ら変わりのない時間を過ごしていることに気が付く。あくまで自分は奴隷だと言い聞かせるようにしているにも拘わらず、ただの一般人となんら変わりのない生活を送っているのだ。
リーリエのケーキに対する歓声。いやに鬱陶しげに顔を顰めるものの、「美味しい」と感想を聞く度に、ほんの少しだけ柔和な表情を浮かべたように見せる終焉。パチパチと音を立てて炎を揺らす暖炉の温かさ。温かな湯船に、明るい照明――どれをとっても今の彼には場違いそのものだ。
本当にこの場所にいてもいいのだろうか――何度もそう思うことが多々ある。
小皿に取り分けられたケーキを選び、銀のフォークで口の中へ運ぶ。砂糖や生クリームの甘さが口いっぱいに広がったと思えば、赤く熟れたイチゴの甘酸っぱさに体を震わせる。
甘いだけではないこの緩急がまた癖になる。
軽く咀嚼を繰り返し、用意されたミルクティーを飲む。甘いもののあとのほろ苦いミルクティーは口の中を洗い流してくれる。そうして再びケーキを口にすれば、また新しい気持ちで甘さを堪能できるのだ。
終焉は相変わらず甘いもののあとに甘いもの――自分に用意したココアを飲み下す。四六時中甘いものを口にして胸焼けがしないのかと、多少なりとも疑問に思うことはあるが、その素振りを男は少しだって見せることもなかった。
対してリーリエは少しの甘みもないブラックコーヒーを堪能していて、ほんの少しだけ終焉の反感を買っていた。
しかし、男も分かっているはずなのだ。コーヒーを勧める前のリーリエは、いつも通りワインのボトルを取り出しそれを飲もうとしていたのだ。ただでさえ買い物付き合いの褒美として招待した夕食にも飲んでいたというのに、これ以上の飲酒は人体にもあまりよくないということで必死の説得を試みた。
結果、女は普段から口にしているコーヒーで妥協したのだ。
――――この光景は、まるでひとつの家庭のようだった。