外へ出て、女達を連れて彼は街への道を歩く。屋敷に置いてきた男は小さく手を振って、扉を閉めて部屋へと戻る。
その一連の流れを後目に、街までの道を歩きながらリーリエが紅を塗った唇を開く――。
「ねえ、あとどれくらい?」
何の気なしに呟いたであろう言葉に、ハインツが僅かに歩みを緩めた。
さあ、でも時間はないだろうね。そう言いながら彼は歩いて、女達が自分の両隣に並ぶのを待った。黒いドレスに、黒地がベースのシスター服。黙っていれば顔は整っている女達を両隣に置いていては、両手に花だとからかわれかねない。
それでも彼は、話がしやすいように距離を詰めた。
「でも……あとは料理だけ。やっぱりあの人は『完璧』なままだよ。料理なんてすぐに覚えちゃってさ。僕らの――は、凄い人だよ」
口角を上げて笑みを浮かべると、リーリエもマリアも満面の笑みを浮かべた。彼らにとって男は誇れるもの。記憶が無くとも、その事実は一切変わらない。彼らにとっての男は支えるべきひとつの存在だ。
――時間が足りない。そうひとりごちたのは紛れもないハインツ。歩みを進めながら街の入り口へと辿り着いたとき、嫌なものを見るような目でそれを眺める。
「嫌いだな、この街は」
ぽつりと呟いた言葉に、マリアが「故郷なのに?」と訊ねれば、彼は頷いた。
「特に〝教会〟は――今じゃないけど、ね」
機嫌を損ねたかどうか。それを不安そうに確認した彼の表情はほんの少し、怒られるのを恐れるような子供の顔付きだった。
気にしなくていいのよ、とマリアが言う。好き嫌いはその人の自由だもの――そう言って微かに片腕を擦り、ほう、と息を吐く。
「――何にせよ、私があんた達の代わりに面倒見てあげるわよ」
「……見てもらう、の間違いだろ」
「そうとも言うわね」
辛気臭くなってしまった二人を他所に、リーリエは胸元に手を当てて言葉を放った。まるで「大船に乗ったつもりでいなさい」と言わんばかりの態度だ。彼女はろくに料理もできない女だが――、不思議と安心感が彼の胸に募る。
ほんの少しの指摘の後、彼はくっと笑って肩を震わせた。
残された時間が足りない。
――それでも、思い出に残せるようなものを作ろうと、彼は笑う。
何を買おうか。そう問い掛けるハインツの言葉に、「お酒~!」と二人の女の声が重なった。