────そこから先は様々な苦難があった。
仙舟人はやはり短命である応星をバカにして、ろくに工房にすら触らせてくれなかったが、応星もいつまでも少年でいるわけにもいかない。長い年月を生きていけるくせに、いくら待っても武器の性能を向上させる兆しのない彼らに、応星は遂に手をあげてしまった。こいつらに比べれば老い先短い人生、こんなところで無駄にしていられない、と腹が立った。
そうすると応星を嘲笑う者は減り、彼もまた工房を使わせてもらえるようになった。────しかし、その材料はと言えばどれもこれも全てゴミと認識されるようなものばかりで。大したものは作れまいと、遠巻きからニヤニヤと口角を上げている仙舟人が見受けられた。
その頃には応星も少年から青年へ変わっていて、あどけなさの残る輪郭はすっかり大人のそれへと変貌している。一番の変化と言えば、彼の内気な性格は傲慢な態度へと変わっていた。何せ彼は、挑発とも取れるがらくたのような材料を、どれもこれも一級品と呼べるような立派なものへと作り上げてきたのだ。
鋭さを兼ね備えた剣。鎧をも貫きかねない槍。────忌み者を全て屠るためならばと、応星は自分の全てを鍛冶に費やしてきた。今さらそこらで悠々とふんぞり返りたった一人の人間を嘲笑っている長命種など、応星の敵ではない。
彼は自分を嘲笑っている三人ほどの長命種へと歩み寄り、がらくたであったそれを立派な遺物にした姿を見せ付け、どこぞの誰かのように腕を前で組む。そうして彼らを見下ろし、フン、と鼻を鳴らしてから煽るように「この程度か?」と言った。
「どれだけ長生きできるとしても、俺よりも優れたもんのひとつも作れないんじゃあ、たかが知れてるな」
────そうして何度も喧嘩になったのを、姿が変わる様子のない師は遠くから眺めていた。
短命種である応星が職人として認められるとなると、必要になるのは称号だ。彼は以前から話を聞いていて、職人として目指すのは百冶という称号を得ることだった。
昼夜問わず、寝食も忘れていた応星は鍛冶に人生の殆どを費やした。途中で色恋沙汰の話を持ちかけられたものの、「そんなものに現を抜かしてる場合じゃない」と一蹴して、また鎚を握る。熱されて赤く燃える鉄と向き合っているときは、余計な雑念を捨てることができた。色恋の話を振りかけてきた白珠には悪いと思ったものの、今の応星の「恋人」という枠は殆ど鍛冶に埋もれていた。
恐らく白珠は、応星が短い人生の全てを復讐などに費やしてほしくないのだろう。不定期に応星がいる工房へと遊びに来ては、身振り手振りで今までに渡ってきた出先の話をしていた。「ここは海が綺麗な場所でしたよ」「ここの食事はとても美味しくて」などなど、どうにも応星には外の世界に触れてほしいと言わんばかりの話だった。
さすがの応星も、遠路遙々────そして、今日も不幸に見舞われず無事に帰ってきた白珠の話を聞き流すことはなかった。休憩がてら湯飲みに茶を注ぎ、近くにある椅子に腰掛けて茶菓子を共に頬張る。そうしている間は多少なりとも復讐心に囚われることはなかったが、それでも根本的な解決には至らなかった。
忌み者を屠るにはそれ相応の武器が必要で、周りを認めさせるには称号が必要だった。時間がないと知るや否や、応星は遂に白珠とまともな会話をすることも避けて、一心不乱に鍛冶へとのめり込んだ。
────苦痛ではなかった。物が形になっていくことにすら、喜びさえ覚えていた。自分はこのために生まれたのではないかと錯覚すら覚える程だった。
────そうして応星にとっては長い年月が流れた日。彼は短命種という身でありながら、百冶の称号を手にすることができた。
その頃には幼さの残る容姿など欠片も残されてはおらず、傲慢で生意気な男がそこにはいた。活動場所は朱明から羅浮へ移り変わったものの、応星のやることは何も変わらなかった。ただ忌み者を屠る武器を作る────たったそれだけの気持ちだけが応星を突き動かしていたのだ。
短命種が百冶になったという噂は瞬く間に広がり、誰もがその姿を一目見ようと応星の工房を訪ねた。初めこそ彼を揶揄い、何かの間違いだと言い張る者がいたものの、応星が手掛けた武器が他のどれよりも優れていると気が付いてからは、波が引くように大人しくなった。中には応星の弟子にしてほしいと彼の元を訪ねる者がいたが、いかんせん応星は弟子を取れるような性格をしていなかった。
仙舟人は皆同じような生き物であるという先入観が、一切拭えなかったのだ。
────それでも、応星が寝食を蔑ろにしてまで鍛冶に打ち込んでいると知ると、勝手に身の回りの世話をする人物が何人か現れるようになった。当初は厄介だと思っていたものの、適度な休憩を促されることでコンディションが整っていくのが分かった。人の好意は素直に受け取るべきだと実感していると、百冶になった応星の元に、白珠が意気揚々と尋ねてくる。狐族特有の大きな尻尾を振り、応星が無事に百冶の称号を得たことを大きく祝ってくれた。
「どうせならパーッと飲みたいですね! 応星はもう飲める歳でしたっけ?」
「ああ、俺の故郷じゃあ、もうイケる歳だな。折角だから金人港にでも行きたいもんだな」
時間さえ取れればいいんだが。そう言って応星は改めて自分の予定を確認する。百冶になってからというものの、応星の元には沢山の依頼が殺到するようになった。鍛造やら修繕やら、武器以外の何かしらの依頼さえも来るようになった。確かに喜ばしいことではあるが、拘束具など何に使うのかと訝しげに思っていた記憶が新しい。────そんな中で飲みに行く予定を立てるとなると、少しだけ厳しいものがあった。
────しかし、相手は幼少期から面倒を見てくれていた白珠だ。いくつかの依頼の期限が過ぎようがなんだろうが、少しくらいは私情を優先しても構わないだろう。
────そう思っていた矢先。
「応星、あれ……」
白珠が示した先────、小綺麗な服を着た持明族が一人、応星の元を訪ねた。